topTOP インタビュー 「俺は何をしたらいいんだろう」にならないために 根岸泰之さんが説く、自分軸づくりのススメ

「俺は何をしたらいいんだろう」にならないために 根岸泰之さんが説く、自分軸づくりのススメ

「俺は何をしたらいいんだろう」にならないために
 根岸泰之さんが説く、自分軸づくりのススメ

インタビュー 2020.06.04

新型コロナウイルス感染症が、私たちを大きく揺さぶっている。
通勤ピークを避けた時差出勤を実施したり、在宅勤務・リモートワークに切り替わったりしている企業も増えている。
また、終身雇用の崩壊や老後2,000万円問題なども相まって、日本人の働く環境や価値観は急速に変わりつつある。

こんな状況の今だからこそ、働くこと・生きることの本当の意味や価値を考え直すときではないだろうか。

これからの仕事や人生を幸せに過ごすためには「自分軸」が必要と語るのは、ランサーズ株式会社の根岸泰之さんだ。
会社員からフリーランスまで様々な働き方を経験されてきた根岸さんに、人生100年時代を生き抜くための考え方を伺った。

 

根岸 泰之(ねぎし・やすゆき)

2001年、フリーランスライターとして社会人生活をスタート。子供の白血病がきっかけで転職を決意し、2013年4月ランサーズ株式会社に入社。
現在はスマート経営推進室室長兼CEvO(チーフエバンジェリストオフィサー)として、新しい働き方であるスマート経営を広げる活動を行っている。

「ランサーズが普及すれば、望まずして経済的に苦しんでいる人を減らせるのではないか」

―本日はよろしくお願いいたします。
根岸さんは、ランサーズでどのようなお仕事をされているのでしょうか?

ランサーズはマッチングのプラットフォームなので、クライアント(発注者)側と個人(フリーランス)側に分かれますが、僕は主に個人向けの新規サービスの開発を担当しています。

フリーランスとして活動していく時に必要なお金周り・契約周りのことや健康管理をサポートする「Freelance Basics」というサービスをスタートさせたり、フリーランス同士が繋がって成長できる場として「新しい働き方LAB」というコミュニティを作ったり、といったことも僕のチームでやっています。

新しい働き方LAB」ホームページ

 

―根岸さんがランサーズと関わるようになったのは、お子様のご病気がきっかけだったんですよね。

はい。
前職で会社員として仕事をしていたとき、当時3歳の子供が白血病になりました。
日中はずっと病院で看病しなければならないので、当時の社長に「今日でやめる」と事情を話したら、僕の部署の目標達成とチーム内の理解を得ることを前提に、リモートワークを許可してもらいました。

病院にいると、白血病の子を持つ他の夫婦が会議を始めるんです。

「来月の家賃はどうするの?」
「仕事は辞めちゃったから夜に道路工事のバイトをやる」
「日中は看病があるのに、それじゃあ体がもたないよ」
「もたないと言ってもしょうがないだろう」
……。

僕は仕事もあるし、白血病治療ができる病院も家から通える場所にあったので引っ越しせずに済みました。
一方で、なんでこの夫婦はこんなに八方塞がりになってしまっているのだろう、と思っていました。

その後、無事退院できて子供の心配が減ったときに、「あのような状況はやっぱりおかしいぞ」と改めて思うようになりました。
前職の仕事も意義は感じていたのですが、自分にしかない経験から気づいた「やった方がいい」と思えるものに突き進もうと思って、転職しようかな……と知り合いの人に話しました。

その時、知り合いに紹介されたのが秋好陽介氏(ランサーズ代表取締役社長CEO)でした。

 

―ランサーズへの転職を決意した決め手は何だったのでしょうか。

ランサーズのようなサービスがちゃんと普及すれば、子供の白血病は治せないかもしれないけれど、入院や看病で経済的に苦しんでいる人たちは減らすことができるんじゃないか、と思っていました。
それを既にやっていた秋好はすごいなと思って。

最後の決め手になったのは、秋好に会いに行ったとき、彼のパソコンのモニターに貼ってあった写真です。お母さんと子供が河原で遊んでいる姿が写っていました。
この写真は秋好の家族なのかと思って「これはご家族ですか?」と聞いたら、「いや、会ったこともない(ランサーズの)ユーザーさん」って言われたんですよ。

自然のあるところで子供を育てたいが、そうすると仕事がない、仕事がある都会にいると大自然で子供を育てられない……といったジレンマを抱えているユーザーさんが、ランサーズと出会ったことで、自然のあるところに引っ越してインターネットで仕事ができるようになったと。
こんな望んだ生活ができるようになってます、とユーザーさんが送ってくれた写真を、パソコンに貼っていました。

その時、会ったこともない普通のいちユーザーさんの家族写真を毎日見るパソコンのモニターに貼っておく人ってすごいな、と思ったんです。
とにかくユーザーさんに向き合う人だから、この人と一緒にやれば何か成し遂げられそうだ、と思いました。

当時、ランサーズ以外にもインターネットで仕事を獲得できるプラットフォームはありましたが、僕の中では秋好陽介というのが大きかったです。

 

止まらない「価値観の多様化」

―フリーランスの働き方を支援する立場の根岸さんから見て、日本の働く環境は変わってきていると感じますか?

自分のやりたい道を選びやすくなったというか、選択肢は増えたなと思います。

「働く」といってもスタイルは様々で、会社に就職するか起業するか、会社勤めにしても正社員なのか派遣社員なのかアルバイトなのか……といろいろありますが、その中に、個人でやっていくフリーランスという選択肢が加わったなとは思いますね。

 

―変わってきている要因はどんなところにあるのでしょう?

いちばん大きなものは、価値観の多様化だと思います。
かつては、一つの会社に骨をうずめる覚悟で入って一生そこで働くスタイルで幸せでした。高度成長期で経済が伸びていくので、偉くなれば給料が増えたからです。
給料が増えるので、マイホームを持ったり車を買ったり、子供に贅沢させてあげられたりする。それはそれで幸せな形だったなと思います。

しかし、バブルが崩壊して少子高齢化などが問題になってくると、企業の寿命はどんどん短くなっていくし、年金もあてにできなくなるので、一つの会社にずっと籍を置き続けるのではなくて、自分のやりたい方向を選んで何とか自分で生きていこう、となるわけです。

価値観が多様になる、この波はもう止まらないし加速するのだろうなと思いますね。

 

相対評価が皆を不安にさせる

―価値観というつながりで、根岸さんは日本人の労働に対する価値観をどのように捉えていますか?

日本人には、「嫌な仕事だけど歯を食いしばってでもやるんだ」みたいな労働観が一定あると思っています。でも、それは変えた方がいい、と僕は思っています。

 

―それはなぜですか?

もともと、企業と個人は平等な関係です。
しかし、採用するかどうかを決めるのは企業だし、給料を決めるのも企業なので、どうしても企業の方が上の立場で個人は下だ、と捉えられている面があります。

それが、価値観の多様化によって、単一の価値観だけを押し付ける企業からは個人が離れていってしまう。
企業は頑張ってくれる社員がいなくなると困るので、個人のいろいろなニーズを受け止めながらうまく運営していくようになって、企業対個人のパワーバランスは均衡、むしろ逆転していくと思います。

パワーバランスが均衡した時、個々人に何が起きるかと言うと、これは推測でしかないのですが、皆が今よりもさらに不安になるのではないかと思っているんです。

今は、皆が相対評価で生きて、相対評価で喜怒哀楽をしています。
相対的なので、比較対象がいます。「同僚のあいつより先に出世した」とか、「俺は同期入社のあいつより給料が多い」とか。

しかし、個人が企業から離れて個として生きていくようになると、比較対象がなくなります
比較対象がないと、やりたいことがない人ほど「俺はどうしたらいいんだろう、何をしたらいいんだろう」となってしまうのです。

だから、他人と比べてどうこうではなくて、「自分はこういうポリシーを持ってこういうふうに生きていくんだ」という自分軸を持って絶対評価をしないと、ただただ不安な気持ちでずっと生きていくことになってしまうと思います。

 

年収や知名度だけで転職しても、また別の不満を持つだけ

―「周りの人と比べるのではなく、自分の軸をもって物事を判断する」というのは、どんな経験から生まれたのでしょうか?

原体験としては、ワーキングホリデーで行ったオーストラリアでいろいろな人に会った経験が大きいです。
中でも、ザンビア人の40歳ぐらいのおじさんのことは、今でも覚えています。
曰く、有名な先生の授業を受けたくて、シドニー大学に入る学費を働いて貯めているそうなんですが、家族への仕送りもしなくてはならないので、お金が貯まらないまま15年経ってしまった、と。

オーストラリアでは、各々が好きなことを勝手にやっています。
ザンビア人のおじさんもそうですし、「僕は勉強が好きじゃないから働くんだ」「旅をするんだ」というように、皆が自分の軸で生きています。

そんな光景を見て、「普通はこうだから~」というものはなくなりましたね。

 

―日本では、高校を出たら大学に行く、大学を出たら就職する、というのが当たり前になっていますよね。

新卒で就職するのが当たり前だから、いい就職先が見つからないとわざと留年する人もいたりする。
それは本当に意味がないなって思います

「あの大学に入る」「あの会社に入る」「あの役職になる」がゴールになってしまっている人が多いのです。
こうやって何かを選ぶと、目的と手段が逆転してしまいます。

例えば、20代の方でキャリアに悩んで転職を考えている方がいるとします。少なからず今の会社に不満があるから転職を考えると思うのですが、年収や知名度だけで会社を選んでも、行った先でまた別の不満を持つだけなんですよね。
でも、自分という絶対的な軸で判断していくと、会社はあくまでも目的を達成するための手段になります。

世の中は基本的に相対評価だと思うのですが、絶対評価で生きていた方が幸せなはずです。

 

自分軸を見つけるには「会う人を広げよ」

―ここまで何度か「自分の軸」という言葉が出てきていますが、なんだか高尚な印象を受けます……。

必ずしも全員が、たいそうなビジョンを掲げたり夢を持ったりする必要はないと思います。
「世界一高価なベンツを買うんだ」みたいなのでもいいと思うし、「『誰かやって』と言われていることを何でもやる」みたいなものでもいいと思っています。
でも、それは自分がそう選んでいるのだと思います。

自分のスタンスみたいなものを軸に持って選ぶと、仮に困難なことにぶつかったとしても「この困難をどう乗り越えようか」という気持ちになると思っています。

 

―この記事を読みながら「あれ、自分の軸って何だっけ……」とドキドキしている方もいらっしゃると思います。
自分軸を作ったり見つけたりする方法はあるのでしょうか?

いきなり「自分軸を探そう」と言われても見つかりません。
しかし、見つけるきっかけをたくさん得る方法はあると思っています。

それは「会う人を広げる」ことです。
今まで会っていた人ともう会わないという意味ではなくて、会ったことのない人と出会う、ということです。

経営コンサルタントとして有名な大前研一さんは、人が変わるための方法として「住む場所を変える・時間の使い方を変える・会う人を変える」と言っています。
「住む場所を変える」は、引っ越しを考えるとハードルがちょっと高いですよね。「時間の使い方を変える」も、会社に勤めている方だと勤務時間との兼ね合いで変えづらい。
けれど、「会う人を変える」は誰でも今すぐできますよね

だから、「時間の使い方を変える」と「住む場所を変える」も要するに「会う人を変える」ということを言っているのだ、と僕は理解しています。

会う人を変えることで、今までと違う出会いがあり、そこから気付きを得られます。
それによって自分の強みや苦手としていること、好きなことや嫌いなことが見えてきて、「あ、だから自分はこれをやるんだ」というものが見つかるのではないかな、と思います。

なので、もし「俺は何をしたいんだっけ」と感じているのであれば、会う人を広げてみましょう、というのは普段思っていますね。

 

―会ったことのない人に自分から会いに行く……人見知りな性格の人には少し大変かもしれません。

誰も知らない空間に行く最初の一歩が不安であれば、友達と一緒に行く、もしくは友達がいる場に呼んでもらうと良いと思います。

友人と一緒に行くところから始めて、友人をハブに初対面の人と知り合えて、次第にその人と直接やり取りができるようになって、またその人の知り合いのところについて行って……、いずれは自分でも行けるようになると思います。

(※編集部注:このインタビューは2020年2月に取材したものです。新型コロナウイルス感染症が収束するまでの間は、対面ではなくオンラインでの関係構築を推奨します)

 

―最後に、読者へのメッセージをお願いします。

仕事は真剣に遊べ」。仕事を真剣な遊びにするということですね。

根底思想として、僕はワークライフバランスじゃなくて「ワークインライフ」だと思っていて、働くという行為は生活のうちの一個でしかないと思います。
仕事は仕事、遊びは遊び……と分離させるのではなく、生活の中に働くという行為があるイメージです。
仕事も、やりたくないことを嫌々やるわけではなく、好きなことを真剣にやる個人的な趣味であれば適当でもいいのですが、仕事に関しては「真剣に遊ぶ」だと思いますね。

真剣に遊べる場所、真剣に遊びたいと思えるものを皆が見つけられるともっといい社会になると思いますし、それを見つける方法の一つとして、いろいろな人に会って気付きを得るということがあるのではないかな、と思います。

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