出世に必要なのは「体力」
限界まで働き体を壊した女が語る、お暇のススメ
小学校の卒業文集で「本当は弁護士になりたいけれど、私には無理だと思うので法学部へ行ってから就職します」と書いた、現実的すぎてつまらんガキである。
自分でせっせとレールを敷いて、そのまま希望通りの学部へ行き、就職した。親族から資金援助を受けて留学させてもらい、予備校に通っての大学合格。
今思えば、成功の理由は家族ガチャで「経済力 SSR」を引けたからに過ぎない。しかし当時、人生は頑張ればうまくいくものだと思い込んでいた。
だから、20代で私は挫折しまくった。
まさかの「体力不足」でキャリアが途切れていく
大学2年の秋。私は就職活動を始めた。当時はリーマン・ショックで就活市場が大不況。先輩の泣く姿を見て、あわてて動き始めた。
100人を超えるOBG訪問、70社エントリー。選考を進める過程で、就職活動は「テクニックだけで乗り切れる」と気づいてしまった。
乗り切れてしまったがゆえの、複数内定。
しかし、就活はどうにかなっても、40年以上続く社会人生活はどうにもならない。
1社目で私がつらくなったのは、体力不足だ。どんなに業務を効率化している企業であっても、似た能力の人間が集まる会社で、差が付くのは体力。
社内で出世している人は40代後半になっても、世界中を飛び回りながらフルマラソンや格闘技で体力をつけ、1日3時間睡眠で回していた。
この世には2徹(2晩連続での徹夜)を楽しめる人間がいる。
1日18時間働けない人間に、トップ企業での生き残りなんてありえないのだと知った。
転職の理由はさまざまあったけれど、「もっと眠りたい」「このままだと死ぬ」を挙げざるをえなかった。
倒れていく同僚―「生き残り」とは何か?
こうして、私はわずか数年でトップ企業から退職した。体を壊す前に退職したことで、周囲から負け犬扱いをされることもあったし、実際に出世コースという意味では負け犬だと思う。
だが私自身の体力を考えると、ワーク・ライフ・バランスを取ったことで、命拾いしたかもしれない。
31歳のとき、本格的に体を壊したからだ。
ある朝、突然ベッドから起きられなくなった。命には関わらなかったが、持病を抱えて生きていくことになった。
そして、”激務仲間”だった周りも状況は似たり寄ったりだった。謎の蕁麻疹ができるのは当たり前。
「これ、ウケルくない? 全身赤くなってるんだけど」と、蕁麻疹は飲み会の笑い話にしかならない。
蕁麻疹ができたからにはようやく社会人として一人前、なんて話になった。
生理が年単位で来なくても普通の範囲だ。むしろ生理が来なくて済むから助かった、これでもっと働ける。
ストレスで毎日吐いても病んだうちには入らない。それを病んだと認識したが最後、本当に鬱になっちゃうぞ。
体はプレッシャーと戦っているんだ、それを乗り越えた先に未来がある。
そんな風に笑っていたメンバーが、20代後半から30代でバタバタと倒れた。
Twitterに身を助けられ、ライターに
そこで身を助けてくれたのが、Twitterだった。
最初は大学の友達と話すために作ったアカウント。就職後、激務で友達に会うこともできない日々が続いた。しかしTwitterのタイムラインには、深夜に画面を開いても同じ激務仲間があふれていた。
「みんなも頑張ってるんだ」という思いが、私の心を守ってくれた。
つらいときは病みポエムを投稿した。喜びはドヤ顔で褒めてもらった。生存報告のためだけに「出社」「退社」だけをツイートしたこともある。そこから徐々にフォロワーが増えた。
気づけばなんでもない疲れたアラサーが、Twitter経由でお仕事をいただけるまでになった。
そして私は、ライターの仕事を始めた。
しかし、激務出身のサガなのか、ただのバカなのか。
私はつい働きすぎ、気づけば1日15時間労働。「このままだと体を壊しそうだ」と休みを取った時にはもう遅かった。31歳で、急に体が動かなくなった。
起きられない、仕事のパフォーマンスが上がらない。18時に帰ってもくたびれて倒れこんでしまう。病院をいくつも回り、それが長年の過労からもくるものだと知った。どうやら、これからは一生服薬することになりそうだ。
それでも……。倒れたときにはベッドでTwitterを見られた。
寝そべって、目線はNetflixとTwitterとKindleを反復横跳び。紙の本すら手で持てない生活から回復できた。TwitterなどのSNSで「お体大丈夫ですか?」と優しいメッセージが来るたびに、自分で自分をぶっ壊した情けなさと、早く元気にならねばという気持ちであふれた。
体を壊す前に、あなたは逃げろ
最近、30代以上の先輩方が、「20代のうちに限界まで働けば成長する」と書いているのを知っている。
確かに20代で背伸びをすれば、成長しやすいのは事実だろう。
だが、体は徐々に壊れてなんかくれない。起きられない朝は突然やってくるし、その時には手遅れなのだ。
体を壊す寸前から休んだおかげで、私はいま回復している。
だがもし、私がもう少し賢かったら、25歳で激務から手を放していた。
自分の限界を知って、走って逃げだせばよかった。
伸びる人は高みを目指して成長を志せばいい。だが、「もしかして体がきついのでは」と思ったなら、早めに逃げてほしい。
長時間働く体力は、筋トレやマラソンでどうにかなるものではない。
受験期に最長で何時間まで集中できていたか、大学の研究室でどこまでこもっていられたか。
そういった頭脳労働の持久力が、学生時代を超えることはない。
40代の先輩がマラソンや格闘技をしているのは「学生時代の体力を維持して働き続ける」ためで、学生時代を超えるためではないのだ。学生時代の最長時間を超え、成果を出しつづける業務に取り組むと、あなたは壊れる。
いま、これを読んでいるあなたは何歳だろうか?
いま元気なら、それを維持する方向へ走ろう
あなたが元気いっぱいなら、今のうちに体の限界を知っておこう。あなたが「疲れたな」と感じるのは6時間勤務なのか、それとも15時間なのか?
年を取っていく中で、あなたはその体力を維持することはできる。
けれど基本的に、20代前半の体力を超えて働くことはできない。
虚弱体質の人はゴールドマン・サックスに行ってはいけない。外資系コンサルティングファームに入ってもいいが、管理職を目指さない方がいい。むしろ、コンサルのキャリアを背負って数年で辞め、20時には帰れる業界で成果を出すよう注力した方がいい。
そして、いま「ちょっと体調が悪いな」と思うあなたへ。
最近仕事の夢ばかり見たり、肌荒れが治らなかったり、好きなお酒やゲームから、興味が薄れたりしていないだろうか。仕事が忙しすぎて、彼氏と話すのが面倒で別れたいと思ったことはないか。「笑わなきゃ」と思って笑ったことはあるか?
倒れる前の人間は、誰もがこんな症状に悩んでいた。
あなたはまだ間に合う。体を壊す前に、逃げろ。
倒れる前に食いぶちを確保するのが「賢い逃げ方」
逃げろといっても、いきなり退職しろというわけではない。激務の職場はやりがいを得られる場でもある。まして、そこで認められているなら辞めがたいだろう。
賢い逃げ方とは、「心身を壊さない努力」をしながら「壊しても大丈夫」な自分を事前に作っておくことだ。
「心身を壊さない努力」の例を挙げたい。私の場合は、筋トレやたんぱく質と鉄分を意識した食生活。私は自律神経も狂っているので、鍼治療も20代から受けている。心を守るために、睡眠薬を使っている人は多い。眠れなくなると一気に病むからだ。
占いやカウンセリングに定期で通う人も多い。利害関係なく相談できる相手がいれば病みにくいのだろう。たとえば男性がキャバクラで仕事の愚痴をいう代わりに、女性は占い師に愚痴っているのではないだろうか。
占いに通う女性を見ていると、スピリチュアルを心底信じているというよりも「思いのたけを話して、すっきりする喜び」をお金で買っているように見える。
お金を払ってでも、心おきなく話せる相手がいれば心は守れる。
そして、「壊しても大丈夫」な自分を作ること。偶然Twitterから食べていく道を私が得たように……。
趣味の延長から「食いぶちになりそうな仕事」を探してみてほしい。
いずれ老いが来て、普通の人間でも体は壊れる。それでも笑っていられるかどうかは、事前の心構えしだい。だから20代で倒れても、うまくいかなくても。
あなたは大丈夫だ。