20代は転職すると退職金で損する!? まだ退職しないほうがよいの?
転職を考えたときに、退職金について気になったことはありませんか?
転職するタイミング次第でもらえる金額が大きく減ることや、退職金なしになってしまうことがあるなら、それは避けたいところですよね。
それでは、退職金を多くもらうためにも、20代のうちに転職はしないほうがよいのでしょうか?
いいえ、そんなことはありません! あまり退職金を意識せずにキャリアを考えていくほうが合理的です。
この記事では、そもそも退職金制度とはなにか、計算式や税金などの仕組みについて説明します。
また、転職を考える20代の方にオススメな退職金の考え方や、オトクな制度についても紹介します。
この記事を読めば、わかりづらい退職金制度の概要が理解できるはずです。
あなたが転職を考える上で、退職金について判断できるようになりますよ!
退職金制度とは?
そもそも退職金制度とはなにか、ご存知ですか?
定年退職する人がもらうイメージがありますので、まだ若い20代では、詳しく知らない人も多いと思います。
ですが、定年退職以外にも、転職する際にもらえる場合も。
損をしないためにも、制度をしっかり理解しておくことがオススメです。
したがって、まずは転職される方向けに、退職金制度とはなにか、およびよくある質問について解説していきたいと思います。
もうすでに退職金制度の概要をご存知の方は、ここを押して先に進んでくださいね。
退職金制度は大きく2種類
退職金とは、会社を辞める際、もしくは辞めたあとに会社からもらえるお金のこと。
長年働いてくれた従業員の老後保障が、制度の主な目的です。
退職金には、大きく次の2種類があります。
- 退職一時金
- 退職年金
そして、退職金制度(退職給付制度)とは、この2つのどちらか、もしくは両方ともをもらえる制度のことです。
では、「退職一時金」および「退職年金」とは、それぞれどのようなものなのでしょうか。
カンタンに言うと、まとめて一括でもらえるのが「退職一時金」。
定年退職後、定期的にもらえるのが「退職年金」です。
退職した際に一括でもらえる「退職一時金制度」
退職一時金とは、退職したあとにまとめてもらえるお金のこと。
定年退職を待たず、転職時にもらえる会社もあります。
支給される金額は一般的に勤続年数や役職などが加味されますが、その算出方法は会社の規定によって異なります。
定年退職後、定期的にもらえる「退職年金制度」
退職年金は、退職後に定期的に、決まった金額が支給される退職金です。
企業年金とも呼ばれます。
国民年金とは異なり、会社独自のルールで運用される年金です。
「退職金なし」は違法ではない
え? うちの会社、退職金制度なんてないんだけど……
退職金制度がない会社は違法なのでしょうか?
実は、退職金制度がない会社も違法ではありません。
退職金制度は、あくまで会社があなたのために気を利かせて用意してくれている、福利厚生制度の一環。
必ず退職金制度を用意しなければならない、という法律はないのです。
実際の割合としては、従業員が1,000名以上の大企業は7.7%、100名以下の中小企業では22.4%、全体では19.5%の会社が退職金なしとなっています。
【出典】厚生労働省 平成30年就労条件総合調査
退職金は10年勤務で100万程度
では、退職金制度がある会社で、退職金はいくらもらえるのでしょうか?
実際の金額は会社によって異なりますが、モデルとしての金額を紹介します。
東京都労働相談情報センターの発表によると、平成30年度のモデル退職金は次の表のようになりました。
【出典】中小企業の賃金・退職金事情(平成30年版)|統計・調査|東京都産業労働局
10年間会社に勤め、自己都合で退職したのであれば、89.8万円~121.5万円が平均値となります。
表の金額をじっくり見てもらえればわかりますが、退職金の金額の伸びは1次関数的ではありません。
勤続年数や基本給などの増加に伴い、指数関数的に増えていきます。
転職時、退職金にかかる税金は3種類
退職金には、以下の税金がかかります。
- 所得税
- 復興特別所得税
- 住民税
基本的に源泉徴収されますので、特に手続きを個別にする必要はありません。
また、計算方法は、次の図のようになっています。
【出典】退職金と税|国税庁
少々計算がややこしいように見えますが、この図をよく見てみてください。
かなりの控除を受けられ、オトクなことがわかります。
これは、退職金が従業員の長年の勤務に対してねぎらう意味があることから、税負担も軽くなるように設計されているためです。
転職したら退職金は減る?
退職金は、転職しないで、ひとつの会社に勤め上げる方が多くもらえそうな気がしますよね。
転職すると、生涯もらえる退職金の金額は減るのでしょうか。
勤める会社の退職金規定にもよりますが、大まかに言えば、転職することで退職金は減る可能性があります。
前述の「退職金はいくらもらえるの?」の項でも説明したように、退職金は指数関数的に増えるからです。
転職時、退職金がもらえるのは概ね1~2ヶ月後
転職する際は、何かと物入り。転職時に退職金がもらえるなら、できるだけすぐもらいたいですよね。
いつもらえるかは、やはり企業の規定によって異なりますが、一般的には1~2ヶ月後のようです。
たとえば、中小企業向けの退職金制度の運営を支援している中小企業退職金共済事業本部では、退職金の請求後おおむね4週間程度で支払っています。
【参考】中退共 Q&A 8-1-9.退職金は請求してから何日くらいで支給されますか?
20代の転職では、退職金を意識する必要はない
ここまでは、退職金制度の概要について解説してきました。
以上を踏まえて、20代で転職する際には、退職金についてどう考えればいいのでしょうか。
さらに言うと、退職金をもらうために、転職はひかえたほうがよいのでしょうか?
結論から言います。
「いまの会社に生涯勤め上げる!」と決意した人、つまり絶対に転職しないと決めた人以外は、退職金のことはあまり意識する必要はありません。
もっと言うと、退職金ありきのキャリア設計をするのはキケンです。
その理由は、以下の5点です。
退職金ありきのキャリアが危険な5つの理由
- 若年層の退職金は少ない
- 退職金は年々減っている
- 退職金制度を廃止する企業もある
- 会社が倒産したら退職金がもらえないリスクも
- 年収を上げるほうが優先度が高い
理由① 若年層の退職金は少ない
もっとつとめていたら、退職金がもっともらえるのでは……?
転職を考える際に、こんな風に考えたことはありませんか?
たしかに退職金は、一般的に長くつとめるほど多くもらえます。
ただし、勤続年数と比較すると、退職金はそれほど大した金額ではありません。
「退職金は10年勤務で100万程度」の項の図表2をもう一度見てみましょう。
大卒で10年、自己都合退職の人の平均退職金は121.5万円となっています。
単純に10で割ると、1年で12万ほど。
実際には退職金の伸びは指数関数的ですので、年次が浅いほど、より少ない金額となります。
たったこれだけの金額のために、あなたが転職してキャリアアップするチャンスを棒に振るのは、いささかもったいないと思いませんか?
たしかに、会社の規定で、「退職金の支給は○年目から」と定められている場合は、その年次まで待つのも悪くはありません。
ですが、わずかな退職金の伸びを期待して転職のタイミングを逃してしまうのは、得策とは言えないでしょう。
理由② 退職金は年々減っている
支給される退職金の平均額は、年々減少しています。
転職後はもちろん、老後の生活を全て支えてくれるほどの金額がもらえるわけではありません。
金融庁が2019年に実施したワーキンググループの資料によると、2017年の平均退職金は1,700万円~2,000万程度となっており、1997年のピーク時から3~4割程度減少しています。
【出典】金融審議会市場ワーキング・グループ「高齢社会における資産形成・管理」報告書(案)
いま20代のあなたが定年をむかえ、退職金をもらうときの金額がいくらかは、正確には予測できません。
しかし、少なくともこの20年間の動向からすると、楽観視できないことはたしかでしょう。
理由③ 退職金制度を廃止する企業もある
変化の激しく転職が当たり前になってきた現在のビジネス環境を受け、退職金制度を変更したり、廃止したりする会社も多くあります。
これまで積み立てていた退職金がいきなりゼロになる、ということはなかなか起こらないとは思いますが、目論んでいた通りの退職金がもらえなくなることはありうるでしょう。
理由④ 会社が倒産したら退職金をもらえないリスクも
退職金はいわば積立金のようなものですが、積み立てている会社が倒産した場合、どうなるのでしょうか。
まず、会社に退職金の支給基準が定められていない場合は、そもそも請求すること自体が不可能な場合があります。
つまり、退職金がもらえないことを意味します。
退職金の支給基準がある場合は、会社が退職金を支払えるかどうかによります。
支払うほどの財産がない場合は、会社にかわりに労働福祉事業団が支払ってくれますが、金額は未払い金額の80%。
また、退職時の年齢に応じて、金額には上限があるようです。
このように、勤めていた会社が倒産した場合、期待していた金額がもらえないリスクもあるんです。
変化の激しい現代のビジネス環境において、「絶対に潰れない会社」というのはなかなかありません。
退職金にたよらない人生設計がますます重要となるでしょう。
【参考】倒産した会社から退職金はもらえますか…~弁護士 山下江~|広島の地域生活情報サイト【リビングひろしま.com】
理由⑤ 年収を上げるほうが優先度が高い
以上を考えると、退職金をもらうことよりも、もっと優先度が高いことがあります。
それは、転職や昇格をし、キャリアアップして、年収を上げていくことです。
そのほうが総合的に見て、あなたの生涯賃金を上げてくれることでしょう。
退職金をアテにするかわりにオススメな2つの制度
このように、退職金にたよるよりも、あなたが自身の手でキャリアを築いていくほうが重要です。
しかし、
そうはいっても、働けなくなる老後、生計をどう立てていいか不安……。
という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんなあなたに、退職金のかわりに転職者でも損せず使える、オススメな2つの制度を紹介します。
確定拠出年金(日本版401k)
確定拠出年金(日本版401k)は、自分で運用する年金です。
企業、もしくは個人が毎月一定金額を積み立て、あなた自身が資産運用します。
積み立てた金額や資産運用した利益を、将来年金として受け取ることができるのです。
そして、確定拠出年金は転職時に、いままで積み立てた分を引き継ぐことができます。
この確定拠出年金には、以下の2種類があります。
- 企業型
- 個人型
企業型の確定拠出年金は、企業がお金を出してくれ、従業員であるあなたが運用します。
個人型の場合は「iDeCo」とも呼ばれ、あなたが個人でお金を出し、あなたが自身で運用します。
つみたてNISA
NISA(Nippon Individual Savings Account:日本版個人貯蓄口座)とは、個人投資家のための税制優遇措置のこと。
毎月一定金額内であれば、購入した金融商品から生まれた利益に税金がかからなくなる、という制度です。
そして、NISAには毎月定額を積み立て、長期的に資産運用する「つみたてNISA」という制度があります。
これを利用し、長期的に投資をして老後の資金を蓄えていくのです。
【参考】NISAとは? : 金融庁
投資はこわい? 損する?
確定拠出年金もNISAも、企業が用意してくれる退職金とは異なり、自分で運用しなければなりません。
投資ですので、拠出した金額が保障され、投資した分だけ儲かる、というものでもありません。
投資といえばこわいイメージもありますし、損をするのはいやだ、と思われる方もいらっしゃることでしょう。
しかし、退職金を投資に使う、という発想は、それほど突飛なものでもありません。
「博報堂 新しい大人文化研究所」が2013年に発表した調査結果によると、60代男性は、退職金の17%を投資運用に費やしているそうです。
【出典】博報堂 新しい大人文化研究所「団塊含む60代男性は退職金の17%を投資運用へ。消費も拡大、今後は退職直後の1.5倍の消費意欲。」
働けなくなる老後に、利ざやを稼いで生計を立てるよう準備するのは、決して悪いアイデアではありません。
しかし、いきなり投資をして失敗し、その後の生活が苦しくなる人もいるようです。
であれば、損しても働いて取り返せる若いうちに資産運用に挑戦するほうがよいのではないでしょうか。
おわりに
今回は、転職時の退職金の考え方や、退職金のかわりにオススメな2つの制度について解説しました。
終身雇用が崩壊し、キャリアや老後の資産を自分で形成しなければいけない時代です。
キャリアも退職金も、計画的につくっていきましょう!