朝日新聞の新しい挑戦「動画メディア」記者×SEOエバンジェリストのタッグ=10カ月でPV8倍
朝日新聞社 メディアラボ
創刊から約140年。日本有数のマスメディアである朝日新聞社が、社内の新規事業コンテストをきっかけに動画メディア『Moovoo(ムーブー)』を立ち上げました。編集長を務めるのは社内ベンチャー部門にあたる「メディアラボ」の大内奏氏。「スマートな暮らし」をテーマに、家電や家具、アウトドア商品などを1分のおすすめ動画+ユーザーの検索意図に応えた記事で紹介しています。成果が上がらず悩んでいた2018年8月、マッチングサービス『ミエルカコネクト』を通じて派遣されたフリーSEOエバンジェリスト・石川優貴氏の参画で弾みをつけ、2019年5月現在、8倍までPVを拡大しました。石川氏をアサインした『ミエルカコネクト』事業責任者の安澤薫(Faber Company)を交え、Moovooの成長軌跡と未来について、対談しました。
新規事業コンテストで動画メディア立ち上げ
――朝日新聞社さんの「動画メディア」は意外でした。誕生のきっかけは?
大内さん:朝日新聞はデジタルメディアには近年力を入れていますが、動画をがっつり活用するメディアがあまりなかったので、社内の新規事業コンテストでアイデアが出たんです。メディアラボは社内でも実験部門のような部署。すぐに「やってみよう」となりました。
――ゆくゆく企業広告でのマネタイズを目指すなら、まずPVを伸ばす必要がありますよね。
大内さん:そうですね。まずはターゲット層である30~40代ビジネスパーソンの男性に向けて、PCやスマホなどガジェット系の紹介動画を1分ぐらいにまとめ、Facebookで流し始めました。現在も6~7割は男性ですが、家電や料理グッズ、フードなど商材が広がるにつれて、女性にも読んでもらえるようになってきています。 ところがFacebookが最近、アルゴリズムを変更したんですよ。企業の動画コンテンツをかなり絞るようになってしまった。そこでもう一つ流入経路を確保するために、検索チャネルにも注力するようになったのです。
――SEOの知見はお持ちでしたか?
大内さん:いいえ、ありませんでした。新聞は一時期盛り上がって冷めていくニュースを伝える媒体なので、SEOには向きません。つまり社内にもSEOのノウハウはほぼない状態。そこでミエルカを導入し、「ミエルカ大学」に通って勉強を始めました。試行錯誤して、何とか一定のPVは集められるようになったものの、編集者のリソース不足もあって「自分一人ではこれ以上無理」と限界を感じていたのです。 たまたまその頃、フリーのWebマーケターと企業をマッチングする『ミエルカコネクト』の紹介メールが届いて「ああ、これだ!」と。即返信して、担当の安澤さんに石川さんを紹介していただきました。
「足りないピースがカチッと合った」
――安澤さん、大内さんのお悩みに対して石川さんをご紹介した理由は?
安澤:私たちは企業側のお困りごとを伺い、マーケター側からそれを解決できる人材を探し、ご紹介しています。石川さんはメディア立ち上げ経験も、グロース経験もある。大内さんが求めておられる即戦力人材として活躍していただけると直感しました。足りないピースがカチッと合ったような感じでしたね。
――石川さんは、どのようなご経歴ですか?
石川さん:僕はもともと、商品をおすすめするメディアを運営していた経験がありました。安澤さんにガツガツ質問しながらミエルカ式コンテンツ制作の技術を身につけ、SEOだけで月間300万セッションぐらい増やしたところで独立。僕の方から「仕事くーださい」と(笑)、安澤さんに相談していたところでした。
――お互い、お会いした時の印象は?
石川さん:まさにこれまでの経験をつぎ込める仕事。何より「手が抜けない職場だな」という点を魅力に感じました。大内さんは何に対しても真摯にいろいろ調べる方です。質問も鋭く、気を抜くと答えられない。年齢も近いし、大内さんとなら自分も成長していける、一緒に仕事をしてみたいなと思ったのが大きかったです。
大内さん:石川さんがこれまで培った企画の立て方、ライターさんへの共有の仕方、進行管理の方法を聞いて、素晴らしいと感じました。それまでは自分で1日1コンテンツFacebookに掲載するのが精一杯。でも石川さんが来てから、ユーザーが求める質のいい記事を、数多く制作できる体制が整いました。
SEOとSNS、二兎追うための分業制
――現在、どのように制作されていますか?
大内さん:ジャンルごとのテーマ一覧があり、僕と石川さんでそれぞれ10人ずつライターさんを抱えて制作依頼しています。使うツールはチャットツールとスプレッドシートのみ。僕はミエルカ大学で教わった手法をアレンジし、ユーザーの検索意図を分析して構成案を作り、SEOを意識した動画+記事に仕上げています。石川さんはテーマ一覧の外からもネタを拾って、SNSも意識しつつ自由に作ってもらっています。
――SNSとSEOでは意識すべきユーザーニーズの違いがありますか?
大内さん:Moovooの場合に限ると方向性が逆だと思います。SNSで人気のコンテンツは検索で上がらないものが多い。SNSでは意外なもの、目先が変わったものを紹介すると「それいいね」となるんですよね。悩ましいです。
安澤:SNSは未知の体験を発見して発信してあげる場。そこからニーズが顕在化して多数の興味になったものがSEO、という感じですよね。
石川さん:動画にも言えますね。PR目線できれいにかっちり編集したものはSNSで嫌われがちです。ユーザーのほうから来てくれるSEOは「うちの庭にどうぞ」ときれいに見せますが、SNSは「皆さんのお庭にお邪魔させていただきます」みたいな運用かと。Instagramでよく見る「みんな」が撮って体験談としてアップしたような動画のほうが、SNSでのエンゲージメントもコンバージョンも高かったりするんですよ。
「ワイヤレスイヤホン」に関する深掘り記事が成功
――最近の成功事例について教えてください。
大内さん:「ワイヤレスイヤホン」に関するコンテンツ群です。Moovooは月間検索数約40万回の「ワイヤレスイヤホン」というビッグワードで長らく検索1ページ目にいます。後発ながら専門サイトに引けを取らない成果が出た理由は、このキーワードに対するニーズを的確に突いた企画・ライティングができるようになったからだと思います。
「ワイヤレスイヤホン 使い方」でも検索上位にいますが、たとえばこのように企画を立てます。
「ワイヤレスイヤホンの使い方って意外と簡単!iPhoneに接続、動画で紹介」
1.まず、「ワイヤレスイヤホン 使い方」 「ワイヤレスイヤホン」のサジェストワードとボリュームをミエルカで洗い出しました。すると、大きく分けて以下のニーズがあることがわかりました。
サジェストキーワードをひも解いていくと、
- 「iPhoneやAndroidなど、スマホとの接続方法や使い方を知りたい」
- 「ソニーやBoseなど、ブランドごとの性能・特徴を知りたい」
といったユーザーニーズが分析できました。そこで上位表示が狙いやすい、前者のニーズに応える記事を作ることにしたのです。
2.次に、接続方法や使い方の、どんな点を知りたいのか。これもワードの関連性を分析することで、充電する→電源を入れる→Bluetoothでペアリングする→ペアリングできないときはやり直す→耳につける(下線部分がサジェストワードで出現したワード)といった、一連の流れのニーズもおさえる必要があるとわかりました。
初期の試行錯誤期に出したので粗さはありますが、この記事にはMoovooが大事にしていることが二つ凝縮されています。一つは上記のように「検索ニーズ」を丁寧に読み解くこと。ここまではミエルカが大きな助けになってくれます。
そしてもう一つ大事なのが、体験したからこそ生まれる情報(実感や、撮影した動画・静止画)です。これを織り交ぜることによって、この1本を含む検索上位の記事は滞在時間が平均4~5分となり、読者の満足度につながっていると感じています。
安澤:それは長いですね!4分なら、1分動画に加えて記事もきちんと読まれている証拠です。
大内さん:取材して専門性を増す、あるいは撮影して伝えることによって独自性を増すのがプラスに働いている一方で、この方法では数多く作れないのが課題です。おすすめ記事を数の面で支えていただいているのが石川さんですね。
安澤:実際、関連コンテンツもとても多いですよね。
大内さん:はい。タイトルに「ワイヤレスイヤホン」が入るコンテンツは30本ぐらいあります。
石川さん:ワイヤレスイヤホンについて知りたい人は、そもそもBluetoothとWi-Fiの違いがよくわかるリテラシー高めの人だと思います。だから1ページで網羅するよりも、テーマに分けて1本1本深掘りした記事にしたほうが合っていると判断しました。
記者の編集力を最大限に活かしたWebメディアの運営
――石川さんが大内さんの手法から学ばれたことは何ですか?
石川さん:記者さんならではの「事実」に基づく情報の伝え方は、本当に学ぶところしかないです。大内さんが参考にしている本を教えていただいて勉強しています。まずMoovooは日本語がめっちゃきれいなんですよ。違和感のある表現が少ないというか。
安澤:わかりやすい読みやすい表現方法を採用されていますね。それって新聞社さんの特徴かもしれません。
石川さん:この編集力がMoovooの大きな強みですね。動画制作でも朝日新聞さんならではの「しっかりしたコンテンツをつくる」という下地がすごすぎるので、他社がWebライターに依頼したぐらいでは真似しづらい。もうすぐ5Gが始まりますから、さらに動画はコンテンツの主流を占めていくと思います。
大内さん:2019年10月現在、「MCTオイル 効果」で検索2位の記事や、「電動歯ブラシ 使い方」で検索3位の記事は、ユーザーニーズを把握してから専門家やメーカー担当者に取材しました。読者の「知りたいこと」と、専門性・信頼性の高い情報を掛け合わせて上位表示を叶えています。
記者って情報を仕入れて加工して配信するのが仕事ですが、この「仕入れる」段階のニーズの抽出にもSEOの知識が活かせると実感しました。社内でもSEOが広まってくれたらうれしいなと思います。数字に引っ張られ過ぎてはいけませんが、記者の目を持ちながらデータを読み解くと、例えば経済界の動きでも、もっと読者の生活に身近な話題に寄せていけるのではないでしょうか。
記者×SEOエバンジェリストのタッグ=10カ月でPV8倍
――お2人がタッグを組んでからの成果はいかがですか?
大内さん:PV数は10カ月で8倍になりました。もともとそんなペースで増えていくと思っていなかったので、すごく驚いています。僕がミエルカ大学に通って、試験的に投稿し始めたのが2018年6~7月。8月から石川さんが来てくださり、本格スタート。10月からどんどん上がりすごくいい流れになっています。
安澤:たしかに成長曲線が10月からグッと伸びていますね。
石川さん:検索順位が競合サイトを上回ることも増えてきました。今後、記事の再編集も増やして、来年の1月にはもっと多くの読者に評価されるメディアを目指したい。今の倍のPVを達成したいですね。
大内さん:とはいえ社内ではまだまだ小さなメディア。これからさらに育てていかないと、と考えています。
「ミエルカコネクト」が自由度の高い働き方を実現
――『ミエルカコネクト』で働く石川さんの勤務形態について教えてください。
石川さん:Moovooで働くのは週3で10~15時。主にリモートで、打合せなどで適宜出社します。どこでも仕事できるのでありがたいです。
――会社員時代の働き方と比べるとどうですか?
石川さん:本当に自分がやりたい仕事に携われていると感じます。苦手な事務仕事もしなくていいので(笑)、嫌だなと思う瞬間が一切なくなりました。四六時中仕事している感じになりましたが、それは仕事がもっと好きになったから。朝起きてPC開けたらすぐ仕事。お風呂に入っているときもチャットは返せます。 コネクトは自分で営業せずに自分に合った案件、企業さんにマッチングしてもらえるところが本当にいい。安澤さんが企業さんと下地を整えてくれた上で初回打ち合わせに行くので、ゼロベースでない安心感はありますね。
大内さん:企業側にも、いろんなメディアで活躍されている方の知見を共有してもらえるのはメリットです。クラウドサービスで探してもSEOノウハウがこれだけある方にはなかなか出会えません。「常駐」を必須にすると、さらに条件は厳しくなる。今回、リモートでもライターさんなど外部の方と一緒に記事を作るのは十分可能だとわかりました。
――『ミエルカコネクト』の利用者数は?
安澤:2019年5月現在、登録してくださっているマーケターさんは約150人。企業様も同数ぐらいで、順次マッチングしています。企業様は9割、マーケターさんは7割ぐらいがミエルカユーザーです。
――お2人にとってミエルカユーザー同士だったことは良かったですか?
大内さん:大きかったです。すでにミエルカを活用してやっていたキーワードや検索数の管理の手法などを最初から共有できました。相談先が石川さん、ミエルカ大学、CS担当の方、安澤さんと、複数ある点もとてもありがたいです。
石川さん:ライターさんに依頼する時、「それぞれが思うベストアンサー」ではブレが大きく出てしまうこともあります。でもミエルカは「多数決のベストアンサー」をデータで可視化できます。一つ一つ細かく指示しなくても、ユーザーニーズを正確に捉えた分析ができ、記事の多くが検索1ページ目に上がってくるような制作フォーマットを僕らが手にできたのは、ミエルカという前提があったからですね。
企業の多様な課題を解決する「即戦力人材育成」も
安澤:今後は実際のマッチング事例から、もっとお客様の本当の課題感吸い上げていきたいと考えています。ぜひフィードバックをください。
大内さん:マッチングさせるその瞬間に大きな鍵があると思っています。企業側としては要望をより細かく指定できるといいですね。
安澤:そうですよね。たとえば今後、御社のような「動画撮影スキル」といった新たなニーズも、Webマーケティングに必要となってきますね。マーケターが企業側のニーズに対応できるようスキルを身に着けられるよう、即戦力人材の育成も始めています。将来的には提供できるスキルレベルを認定する制度や、より正確にマッチングできるプラットフォームの構築も実現したいです。
石川さん:マーケターサイドも、スキルアップを助けてもらえるのはうれしいですね。
大内さん:期待しています。
貴重なお話ありがとうございました。
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