スタートアップのCMOに求められる5つの役割とは?
CMO (Chief Marketing Officer)、マーケティング最高責任者。
昔はかなり珍しい役職だったかも知れません。しかし、今やビジネスパーソンのほとんどにとって、耳馴染みのあるポジションでしょう。筆者も複数の外資系企業でブランドマネージャーなどを経験した後、スタートアップにてCMO職を経験しました。
実際、欧米では多くの上場企業がCMOの役割を設けています。近年では日本でも、スタートアップを中心に、多くの企業がCMOポジションを設置しています。特に急成長するスタートアップにおいては、いかにマーケティングを戦略的に成功に導くかが重要であるのは疑いようがなく、スタートアップがこぞってCMOや優秀なマーケターを採用しようとするのは自然なことです。
一方で、広告代理店ボートハウス(Boathouse)と金融・情報サービスのGLGが実施した最新の調査によると、CMOの在職期間は短くなり続けていると言います。そして、重要な事実として、CEOがCMOを重要視しているにもかかわらず信頼していないことを挙げています。例えば、自社のCMOを「一流」と評価したCEOは、36%だけでした。
なぜCMOは信頼を獲得できないのか、最も大きな理由の一つに、「CMOの役割とは何か、何をすべきか」について、CEOや経営層、CMO自身の認識が合っていないことにあると考えます。厳密に言えば、CMOの役割とは何か、何をすべきか、という定義がないことにあると考えます。筆者も自身がスタートアップでCMOとして働く中で、その役割定義について模索し続けていました。
スタートアップのCMOに求められる究極の目的とは何か?それは間違いなく、事業を成長させることに他なりません。スタートアップではCMOのみならずCMO含めすべてのCxOが追っている命題とも言えます。ではCMOは、マーケティング責任者として事業を成長させる中で、どのような役割を果たすべきでしょうか。筆者自身のこれまでのCMO経験、他のCMOや経営者とのディスカッションの中で考える、CMOが果たすべき重要な役割を5つあげたいと思います。
目次
1.顧客起点での戦略設計
スタートアップのCMOの役割として最も重要なものに、顧客起点での戦略立案があります。すべてのCxOが事業成長に貢献する中で、CMOが他のCxOとは違い発揮すべき専門性とは何か?それは間違いなくマーケティングの根幹である「顧客起点」であることです。実際、事業を成長させる事業戦略を策定する中で、マーケットの定義、すなわちコアターゲット・戦略ターゲットの設計は、最も重要な部分です。自社の一番の顧客は誰か?その後どの顧客を狙うのか?それぞれどんな課題を解決するのか?CMOは事業成長に貢献する上で、まず何よりも顧客起点での戦略設計を行うことが求められます。
2.戦略・戦術の落とし込み
もちろん戦略は設計して終わりではありません。その実装に欠かせないのが、組織での落とし込みです。戦略立案から実行にかけて、メンバーを最適な形で巻き込み、適切に共有し、組織に効果的に落とし込むことで、戦略が確実に実行されるようにすることが求められます。また、戦略がうまく実行できているか、どのようなリスクや問題を孕んでいるか、どんなバックアッププランがあるか、常にトラッキングし、リスクに対処し続けることも重要になってきます。CMOは、あらゆる手段を尽くして、戦略が実行され事業目標が達成されることにコミットしている必要があります。
3.ビジネスファネルの最適化
戦略がうまく実行できない理由があるとすれば、それは何でしょうか?最も大きな罠とは何でしょうか?敢えて一つ挙げるなら、組織の壁による「部分最適」の罠です。どんな企業でも、ある組織にとって最適に見えることが、別の組織にとっては最適でないということが起こり得ます。例えば、B2Bマーケティングの組織でいうと、マーケティングチームが有効商談や受注に繋がらないリードを懸命に増やし続けている、インサイドセールスが短期的な指標を追ってターゲットでない顧客にアプローチし続けている、などといったことです。CMOはマーケティングチームのみならず、セールスやカスタマーサクセス含め、ビジネスファネル全体を俯瞰し、どこに課題やボトルネックがあるかを常に見極め、アクションすることが重要です。その際に、あくまで拠り所とすべきなのが顧客起点です。誰が最も重要なコアターゲットで、戦略ターゲットなのか?ビジネスファネルを顧客起点で最適化できるかということが成果を大きく分けることになります。
4.ステークホルダーのマネジメント
マーケティングの戦略実行において、自社のみで完結することはほぼありません。メディア、広告代理店、SaaSベンダーから業務委託メンバー含め、あらゆるステークホルダーと共に戦略実行していくことが求められます。そのため彼らとのシナジーやインパクトを最大化することもCMOの大きな役割になります。大前提、自社の戦略、戦術を適切に共有し、戦略実行を正しく導くことは欠かせません。そして、適切なステークホルダーを巻き込み、アサインし、それぞれの強みをうまく活用することが求められます。加えて同時に、現状の社内のケイパビリティを把握し、中長期でどのリソースを社内で持ち、どのリソースを社外で調達し続けるのか、といったことも戦略的に考えていく必要があります。
5.戦略人材の育成
スタートアップのマーケティングチームは、往々にして若いメンバーで構成されてることが多いと思います。マーケティング経験がないメンバーが大半を占めることも少なくありません。そうした場合には、彼らを中長期で育成していく必要があります。それは必ずしもマーケティングの具体的な知識やスキルのみではありません。1-4にかけてどのように戦略を立案し、実行に移していくのか、どのような組織を作り、メンバーやステークホルダーを巻き込んでいくのか。これらを言語化し共有すること、部分的であれ権限移譲しながら実践の中で身につけていく、そうした機会を提供していくことが重要です。
スタートアップにおけるマーケティング戦略なら
スタートアップにとって重要なマーケティング。その司令塔ともなるCMOがどのような目的で、どんな役割を果たすべきか説明してきました。もちろんCMOに限らずすべてのマーケターにとって目指すべき役割であると思います。
現在、筆者はスタートアップ十社以上でマーケティング戦略立案、組織づくりを支援しています。また、将来のスタートアップCMOの育成にも携わっています。マーケティングスタートアップでマーケティング戦略に行き詰まっている方、マーケティング組織づくりに困っている方がおられたら、ぜひご相談ください。
この記事を書いた人
田岡 凌 / Taoka Ryo
京都大学卒業後、ネスレでネスカフェ、ミロのブランド担当。WeWorkにてブランドマーケティング責任者に。リチカではCMOとして、広報&マーケを管掌、数十社のデジタルマーケティングを支援。 2022年、suswork株式会社を創業。スタートアップを中心にマーケティング戦略・採用人事戦略を支援。
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