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創業90年の時計修理老舗が挑むマーケティングDX ~BtoBからBtoCへの転換と外部プロ人材活用~

株式会社五十君商店

株式会社五十君商店 取締役 江目俊秀様 

サマリー

・時代の変化にともない、マーケティングを抜本的に見直す必要性に迫られた
・それまで埋もれていた顧客データを活用しCRMの取り組みをスタート
・売上げ重視のECから利益重視のECへの“体質改善”を推進

営業をすれば“入れ食い”だった20数年前

どのような業種、業態にも変化は訪れ、時代の流れに企業は翻弄される。時計業界も例外ではない。

経済産業省の資料によると、2003年に5300億円だった国内時計市場は、2022年には1970億円と半分以下に減少した。スマートフォンやスマートウォッチの登場が大きい。

時計の国内生産の推移
出展:経済産業省「時計の国内生産の推移(2003年~2022年)」

創業90年を超える株式会社五十君商店(以下、五十君商店)は時計修理のリーディングカンパニーである。時計修理を中心に、あらゆる時計パーツの卸・販売業や、時計用ボックス・ワインダー(※1)などの関連商品の販売を手掛ける。

BtoBの卸売りや修理が主戦場であった20数年前は、営業をすれば「入れ食い状態だった」と江目(ごうのめ)常務は振り返る。

※自動巻き腕時計(機械式腕時計)を身に着けていなくても巻き上げてくれる道具。

株式会社五十君商店

茨城に工場を展開し、世界中にネットワークを構築。あらゆる部品を調達できるようにまでなった。

しかし、時計の新規需要の減少に伴い修理の需要も落ち込んだ結果、駅前から時計店が姿を消していく。当然ながら、同社の売り上げも減少した。

ただ、五十君商店は現状に甘んじることはなかった。BtoC部門を新たに立ち上げ、ワインダーなどの関連製品のECや、個人向けの修理サービスを展開する。時計店が減少し時計を修理できる場所が無くなったことや、中古やEC市場の伸びに合わせてBtoC向けの事業も着実に売り上げを伸ばしていった。

根強く残るBtoBの文化。一番足りないのは“マーケティング”

BtoCビジネスを立ち上げ、売り上げは伸びていったものの、順風満帆ではなかったと江目常務はいう。その大きな要因が良くも悪くも同社に根強く残るBtoBの文化や商習慣だ。

BtoBはいわばプロ同士の商取引である。ツーといえばカーで事足りるシーンも多い。しかしこれがBtoCとなるとそうもいかない。

江目常務はBtoCの客層の9割は「ライト層」であるという。つまり、時計の知識を十分に持っているプロではない。当然ながら提示すべき情報、あるいは修理の受付時にヒアリングすべき内容も異なってくる。

たとえば、ゼンマイ式の腕時計は「着用しないと遅れたり止まったりする」。これは時計に少し詳しい人なら周知のことだ。ところがある顧客は、時計を8時間身に着けていたにもかかわらず、10時間ほどですぐに止まってしまったという。職人が見てもどこも故障していない。

これは「長時間付けていても運動量が足りないとゼンマイが巻き上がらない」という知識があれば、本来は解決できることだ。

時計イメージ

しかし、上述のとおり顧客の9割はライト層である。時計を上司や親からもらったという人も多い。時計の基礎知識は持ち合わせておらず、(時計店が減ったため)それを知る場所もない。

こうした情報を、顧客の購買プロセス(=カスタマージャーニー)の中で、タイミングよく届けることがマーケティングでは重要となる。当時の同社は必ずしもそれができているとはいえなかった。優れた技術を持ち合わせているにも関わらず、見せ方やコミュニケーションの部分で課題を抱えていたのである。

転機が訪れたのは、同社を長年勤めあげた部長の退職だった。新たに部長職を雇うために、さまざまな人材と面談する中で、江目常務は点と点がつながったという。「うちに今一番足りないのはマーケティングだ」と──。

社内に新風を吹かせる外部からの人材

同社がマーケティングをしてこなかったわけではない。BtoBでの成功は、まさにマーケティングの試行の賜物だろう。しかし、ことBtoCについては社内に知見がなく手探りだった。その状況を打破したのは、外部から参画した人材だった。

社内に新しい風を吹かせたマーケティング人材は3名。1人目は、人材紹介会社を通して新たに部長として入社した片岡氏だ。片岡氏は、外資系ブランドのマーケティング経験のある人材である。徹底した顧客視点で4代目社長である五十君尚隆氏とサービスのブラッシュアップに取り組んでいる。

そして二人目の人材はミエルカコネクトから、業務委託として参画したCRMエキスパートの梶浦氏。江目常務は梶浦氏について、「顧客の導線や思考を徹底的に考え抜く人材」「それを系統立てて人にわかりやすく説明できる人材」と評する。

そして三人目も同じミエルカコネクトから参画した、ECスペシャリストの田中氏だ。江目氏は田中氏について「10年近くAmazonや楽天に取り組んできたが、専門家のアドバイスはとても的確で目からうろこ状態」と評する。

体制図

ここからは片岡部長と梶浦氏、田中氏が取り組んだ施策例をみていこう。

五十君商店が取り組んだマーケティングDX

CRM施策によるリピート客の創出

新規顧客獲得の単価は年々上昇傾向にある。リピート強化の重要性は認識していたものの、十分な取り組みができていなかった。幸い、同社には過去の購買情報がデータとして蓄積されていた。

BtoCの場合、売り上げと利益は「顧客単価×購入頻度×利益率」で構成される。このうち利益に対するインパクトが大きく、コントローラブルな指標(=グロースドライバー)を大量のデータから見つけ出すことが重要だと、ミエルカコネクトマーケターの梶浦氏は言う。

たとえば、高級時計は通常2~3年で「オーバーホール」という修理を行う。この2年と3年は一見小さな差に映るかもしれないが、10年というスパンで見ると利益に大きな影響を与える。前者の場合の注文頻度は10年で5回だが後者は3回だからだ。

オーバーホールのスパン

したがって、どうやってオーバーホールのスパンを短くしてもらうか、つまり必要性を感じていただくかという観点でアクションプランを練っていく必要がある。

これはあくまで一例にすぎない。こうした仮説と検証をデータをにらみながら繰り返し実施していくのが梶浦氏の真骨頂だ。取り組みははじまったところだが、あきらかに顧客の反応が変わってきたという。

事実、オーバーホールの売り上げは2022年の10月に比べ、2023年は約1.5倍となった。

商品ページのCVRを2倍にしたABテスト施策

同社は過去に2社ほど外部のコンサル会社を入れていたという。しかし、売り上げは倍増したものの、利益は半減した。

ECサイトで売り上げを短期的に増やす施策として、よく使われるのが「クーポン」などの値引き施策だ。こうした施策が悪いわけではないが、使いすぎると利益を圧迫してしまう。

ミエルカコネクトから参画したECコンサルタントの田中氏は、値引きを乱発するのではなく、ABテストを積み重ねて商品ページの改善を行い、CVRを高めることが本来取り組むべき施策だと言う。そして、商品の見せ方などを“データ”を見ながら改善していった。こうした地道な取り組みが着実に数字に返ってきているという。

実際に以下のような細かなABテストの積み重ねの結果、CVRが1.57%から3.13%と約2倍に上昇した商品ページも存在する。

細かなABテストの積み重ねビフォーアフター
ある商品ページのCVR
実際に改修したページ:五十君商店楽天モール「時計ケース」

進化する老舗企業は、次の50年を見据える──。

外部から採り入れた新たな風によって、着実に社内の空気が変わってきていると江目常務は語る。マーケティングの強化によって、顧客の反応が変わり、それを受けて社内の担当者も活き活きと改善に取り組むようになった。

梶浦氏や田中氏、そして片岡部長の尽力により、マーケティングの重要性が社内に広まり、さまざまな施策が進めやすくなった。
江目常務は、「自分たちだけでは決して巡り合うことがなかった人材に巡り合えた」とミエルカコネクトを評価する。

実際、課題は把握しているものの、「それを解決できる人材が社内にいない」という悩みはよく聞く。江目常務も「人に聞いた方が早いし社外の人間の方が客観視できる」と振り返る。

現在、BtoC事業は右肩上がりで成長を続け、2019年から比べると2023年の売り上げは約1.8倍に増加しBtoB事業を追い越す勢いだという。

五十君商店は外部の人材を積極的に活用しながら、次の50年を見据えて「マーケティングDX」に取り組み続ける。

確かな時計技術をもつ同社に、マーケティングが実装されることで、さらに組織は進化し続けるだろう。

ビジネスの課題に新たな出会いで風穴を開ける

ミエルカコネクトは、マーケティングに課題を抱える企業と、即戦力Webマーケターを橋渡しする、業務委託マッチングサービスだ。18年にも渡り企業のWebマーケティングを支援し続けてきた、Faber Campanyのエージェントが約1,300名のフリーランス、副業人材の中から、ぴったりの人材を提案する。

マーケティングに課題はあるが、誰に相談したらよいかわからない、どんな人材が必要かわからない、といった企業はぜひ一度検討してみてほしい。

4年ぶりに楽天ショップ・オブ・ザ・マンスを受賞!【2024年11月追記】

田中氏の参画後、わずか半年で五十君商店の楽天ECモールで成果が現れ始めた。

月間の楽天モールからの売上を着実に増加させていき、2024年の3月の売上は、2020年9月以来の過去最高数字を更新。その結果 、24年3月に楽天モールの時計ジャンルで1位を取得、そして24年3月に楽天ショップ・オブ・ザ・マンスを受賞することができた。

該当の楽天ショップオブザマンスページ
該当の楽天ショップオブザマンスページ:https://event.rakuten.co.jp/somshop/2024/0419/index.html

また、2020年から右肩下がりだった年間平均売上も、回復してきている。

過去5年間の平均月商の推移
過去5年間の平均月商の推移

今回の実績について、五十君商店の楽天モール運営をしている後藤氏と鈴木氏から、以下のようにコメントをもらう。

鈴木氏:
「過去、月間優良ショップは何度か受賞したことがございましたが、それも2020年が最後となっており、今回受賞できましたのも、田中さんたちのご支援のお陰と実感しております。今後も店舗として成長していけますよう、引き続きご協力いただけますようお願い申し上げます。」

後藤氏:
「3月の実績は恐らく過去最高売上になっていると思われます。これまで月の前半が好調であっても後半にかけて落ち着いてきてしまうところが、今回勢い衰えず月末まで好調でした。通常落ち込むこの時期に売上の種が稼げたことは、大きなメリットと感じています。」

本取り組みの開始に際し、田中氏は現状の解析をした結果、「アクセスを新たに増やすのではなく、店舗全体のCVR改善によって、月間売上のベースメントを向上させる」という戦略を打ち立てた。その戦略が見事に奏功し、9ヶ月という短期間で達成に至った。

これからも、五十君商店の楽天モールにおける売上最大化を目指し、さらに多くのお客様に五十君商店の商品が届くよう、田中氏との挑戦は続いていく。

参画したマーケター紹介
梶浦氏
梶浦氏

広告代理店にてアカウントプランナーとして、広告の企画立案、メディアバイイング、制作、納品、清算業務まで一貫して担当した後、事業会社の広宣販促にて、マーケティング、宣伝広告、広報業務に従事。その後フリーランスとしてECサイト、サービスサイトのリニューアルから各種制作ディレクションを支援。現在は、現在は大手IT企業にて、既存会員の利用促進、新規会員獲得、新規事業アライアンス開拓を担当。
CRM領域と、デザイン・制作領域を絡めたマーケティング・ブランディングの支援に強みを持つ。

田中氏
田中氏

大学院卒業後、大手SIer企業に入社。画像解析技術を用いたセキュリティソリューションの提案営業やシステム構築、運用保守などを担当。その後東証一部上場(現東証プライム)グループのECコンサル企業にて、300サイト以上の分析/全体戦略策定/各種施策実行などを行う。大手化粧品メーカーや大手製薬会社などのEC事業参入プロジェクトにおいて事業立ち上げサポートの実績多数。
ECにおけるマーケティング戦略設計/ユーザー分析/システム構築などを得意としており、『最高のマーケティングパートナー』を目指してお客様のビジネスの成長に伴走中。

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